2011年11月5日土曜日

核反応 (核分裂と核融合)

 核反応(nuclear reaction)には二つある。核分裂(Nuclear fission)と核融合(Nuclear fusion)。元素の周期表を見ると、それぞれの原子の重さが書いてあって、反応のし易さでいうと、重い原子の方が核分裂しやすく、軽い原子は核融合しやすい。”反応しやすい”といってもどっちの場合も、人間の生活レベルからすると極限の状態(温度とか)。

今の原子力発電は、核分裂によるもので燃料はウラン(原子番号92)とかプルトニウム(原子番号94)。核融合の実現に向けて、実験で使われてる燃料は重水素(Deutrium、原子番号1)、三重水素(Tritium、原子番号1)、もしくはヘリウム(He、原子番号4)。ちなみに中間ぐらいにおる原子は鉄(Fe、原子番号26)。

具体的に核分裂反応がどう起こるかを説明すると、重たい原子に中性子みたいなもんで刺激を与えると、分裂が起こる(図の右、参照)。分裂には法則があって、適当にバラバラになっていくわけではなく、ウランが分裂すると、RbとCsになる。このときにエネルギー(熱)が発生して、この熱で水を沸かし、水蒸気によって水車みたいなタービンを回して発電してるのが今の原子力(核分裂)発電。発電に使えるぐらいの熱を発生させようとすると、1回核分裂が起こったらええってもんじゃなくて、何回も連続して核融合反応を起こす必要がある。今の原子力発電所がだいぶ古いっていう問題もあるけど、核分裂の場合、反応で起こる熱で、炉が熱くなりすぎたり、行き過ぎた反応を止めることはできへんという制御の難しさがある。
nuclear_reaction.jpg
(図はHyperphysicsより)
 対して、核融合反応は、軽い原子を勢いよくぶつけて融合させる。一番起こりやすい反応は、重水素と三重水素による反応(図の左、参照)。これがまたなかなか融合してくれへんくて、起こりやすい状態をつくるのが核融合研究の課題。核融合反応してへんのか?というと、そんなことはない。ただ、核融合発電のことを考えると、1回の核融合反応ではなく、連続して反応させる必要がある。しかも、核融合を起こすのに使ったエネルギーより、出てくるエネルギーが大きくないと、消費が大きいだけで発電どころではなくなる。

大体、核反応の説明はこれぐらいにして、核融合についての説明にうつっていくとしようか。自分の研究分野の紹介まではまだまだ遠そう・・・。

 少し、どういう風にエネルギーが発生されるかというのを説明しとこう。核分裂でもエネルギーが出るわけやけど、重水素(D)と三重水素(T)の核融合反応を例にとると、
DT_reaction.jpg
 こんな感じ。重水素を構成してるのは、陽子1個(青○)と中性子1個(灰色○)。三重水素は、陽子1個に中性子2個。この二つが反応すると、原子番号2、ヘリウム(陽子2個、中性子2個)ができる。このとき、1つ中性子もできる。しょぼいながらもアニメーションで説明すると次のような感じ。
 反応前と後の”質量差”ってのが重要なんやけど、反応前の総量と反応後の総量を比べると、
mass_deficit.jpg
 反応後の方が少し軽い。でも、エネルギー保存の法則からいうと、原子の形は変わっても反応前と反応後のエネルギーは同じでないといかん。でも質量差がある。そこで、出てくるのが有名なアインシュタインのやつ、
mc2.jpg
 ですわ。Eはエネルギー。式の意味は、エネルギーは質量差×光の速度の2乗。反応前と反応後の質量差(質量欠損)はエネルギーと考えれるというもの。cは光の速度で秒速300,000,000m(3*10^8 m/s)で一定。この質量差は小さくても、光速の2乗はすごい大きな数。掛け合わせれば、大きい数になるということで、エネルギーも多きくなるわけ。

さてさて、次は核融合が起こるのに必要な条件へ。  

 核融合が起こってる一番身近な例は、太陽。バンバン起こってる。太陽以外にも星が光ってるエネルギーの源は核融合による。太陽を考えてもわかるように、えらい遠くにあるにもかかわらず、地上までものすごいエネルギーが届いてる。

核融合が起こるには、原子核が高速でぶつからんといかん。その理由は、原子核はプラスの電荷をもってて、ゆっくり近づけていっても反発しあって融合してくれへん(下図参照)。この反発力に打ち勝つぐらいに原子核同士を勢いよくぶつける必要がある。
 原子核が高速で動いてる状態はエネルギーが高い。エネルギーが高いってことは、この場合、温度が高いと同じ。水を例に考えてみると、水の中の水分子よりも水蒸気の中の水分子の方が温度(エネルギー)が高く、速く動いてる。核融合を起こすには、ガスコンロで沸かすぐらいではダメで、もっともっと高い温度が要る。具体的には、1億℃ぐらい・・・。このぐらいの温度になると水分子(H20)はバラバラ(HとOと電子)になってて(プラズマ状態)、それぞれの原子核が飛び回ってる。なかなかこのぐらいの超高温にするのは難しい。

原子核が反発力にうちかつぐらいの高速になっても、ぶつかってくれへんと話にならへん。そこで、数多くの原子核を小さいところへ閉じ込めると、ぶつかる回数が多くなって、核融合もよく起こる。この”閉じ込める”ってのはかなり重要。

太陽に話を戻すと、太陽全体が高温を保ってて、原子核は高速でぶつかり、連続的に核融合が起こってエネルギーを出してる。原子核は高速で動いてるけど、太陽はでかい。あんなにでかいのが原子核を頻繁にぶつけれる状態を保ててるのは、太陽の重力のおかげ。ものすごい重力ですべてを中心に引っ張って、飛び交う原子核を閉じ込めてる。
more_density.jpg
 太陽(星)が出すほどのエネルギーを地上で発生させよう、とはいわんでも、核融合で出るエネルギーが利用可能になれば、相当なものや。利用可能になれば。

次は制御核融合の種類について。やっとこさ、自分の研究紹介に近づいてきた。  


地上で核融合を起こすには


 地上で核融合を起こすには、超高温の原子核を重力じゃなく、他の方法で閉じ込めることが必要。主に研究されてる方法には、磁気を使って閉じ込める方法(磁場核融合)と、力で押し込める方法(慣性核融合)がある。
閉じ込め方で分けた核融合の種類


<磁場核融合>
プラズマ(+と-を持った粒子)には、磁力線に沿って動く性質がある。磁力線、そう、ピップエレキバンとか磁石から出てるやつ。地球自体もでっかい磁石みたいなもの。方位磁石が北を向くのは、磁力線が南極から北極へ向けて出てるから。とにかく、プラズマは磁力線に沿ってらせん運動をする(上の図、真中の)。この性質を使い、磁力線を輪にすると、プラズマは磁力線の周りをぐるぐる回りながら、さらに磁力線に沿ってぐるぐる回る。これでうまいこと閉じ込めれるわけ。ここから磁気を使ってプラズマを閉じこめて核融合をおこそうとする方法を磁場核融合とよんでる。磁場閉じ込めの中にもいくつか種類があるんやけど、よく研究の進んでるものにトカマクっていう方式がある(下図参照)。真中の赤い部分にプラズマが閉じ込められてて、周りの輪っかに電流し、磁場(磁力線)を作る。簡単に言えば、こんな感じと。
tokamak-small.gif
(トカマク方式の磁場閉じ込め:
Princeton Plasma Physics Laboratory(PPPL)より
 世界中に大小数多くの磁場閉じ込め用の施設があって、日本にある主なのは、日本原子力研究所にJT-60っていう装置が、また大型ヘリカル装置(LHD)ってのが核融合科学研究所にある。

<慣性核融合>
いよいよ、自分の研究分野。一番上の絵にもあるように、ちっちゃいカプセル(直径1mmぐらい)に燃料(重水素、3重水素など)を入れて、レーザーとかで均一に打つ。すると、燃料を入れてる球の外側が一瞬にして吹き飛ばされるのと同時に、内側に反発力が働く。この押し込める力を使ってとことん圧縮して核融合反応をさせようとするのが慣性核融合。ターゲットを打つもの(レーザーとか)をドライバーっていうんやけど、ドライバーの種類にはレーザーだけじゃなく、X線、重イオンビーム、軽イオンビームもある。レーザーのいい点は、よく集光できることとか短パルスにするのが簡単なことがあるけど、(固体)レーザーは効率が悪いのがいたいところ。下の図は、うちの大学にあるOMEGA Laserでの実験模様。真中の光ってるのが燃料を入れたターゲット。周りの細長い棒とかはレーザーの出口じゃなくて、計測機器類。慣性核融合については、次でももう少し。